【被用者の自家用車(マイカー)による事故】
(2) 通退勤中の事故
会社がマイカーを積極的に会社の業務に使用させている場合はもちろん、従業員が業務遂行の便宜のため、個人的な考えからマイカーを社用に使う場合、さらにマイカーを私用運転中である場合における事故についても会社に責任を負わせる傾向があります。
なぜならぱ会社にもその車の運行に対する支配、運行による利益があり、又第三者からみれば、その車が、私用中か業務中かの区別ができない(外形理論)からです。
ここではマイカーによる通退勤中の事故に関する判例を紹介します。

【判例】
【会社に責任を認めた例】
マイカーによる帰宅途中の事故につき、当車両は会社の業務にも相当利用され、会社もこれを黙認しガレージやチケットの利用など便宜を供与していたものと認められるとして、会社に運行供用者責任を認めた例
(大阪地裁昭49.3.28判決)
バス乗務員のマイカーによる退勤途中の事故につき、その出退勤が勤務の都合上路線バスの営業時間外にわたるため、通勤手段として、マイカーの使用を必要とする場合があり、会社もそれを知り、営業用車庫の一部にマイカー用の駐車場を設置し便宜を図っていたとして、外形理論により会社に運行供用者責任を認めた例
(静岡地裁昭49.5.31判決)
会社がマイカーの購入資金を援助し、かつ通勤のガソリン代も負担し又事務所外の仕事が常であるため、マイカーの使用が普通であるような場合、マイカーによる現場からの帰途における事故につき.会社に運行供用者責任を認めた例
(山口地裁昭49.5.14判決)
化粧品会社甲の支店長乙が会社の業務に必要なためもあり、会社からの20万円の貸与を受け購入した車で、業務終了後他の支店長を送りがてら飲酒し、その帰途起こした事故につき、通勤用及び業務使用していたことを勘案して会社に運行供用者責任を認めた例
(大阪地裁昭50.10.30判決)(交民集8巻5号1560頁)
所有自動車が単に通勤のために利用しているだけでなく、会社の概括的承認または従業員の自宅と工事現場との往復等会社業務のためにもしばしば利用し、その利用に対し会社から手当てが支給されており、事故当日通勤は会社の指示によるものである場合、会社の運行供用者責任を認めた例
(最高裁昭52.12.22判決)(判例時報878号60頁)
事故車の所有者甲が乙会社の空地に置いて、会社の主任に保管を頼み、甲自らも時々使用し、乙会社の用務に使用することも許諾していた場合、乙会社の従業員丙が、乙会社の主任の承諾を得て使用、帰宅途中事故を起こした場合、甲は本件車の運行支配および運行利益を得ていた。
また、乙は本件車の使用を許諾していたとして、両者に連帯して運行供用者責任を認めた例
(和歌山地裁田辺支部昭54.1.30判決)(交民集12巻1号149頁)
会社の営業所長が営業所内の仕事を終えた後に、営業所の入口の門扉を施錠し、マイカーを運転して路上に進出したところ発生した事故につき、このような事情においては、
民法715条“事業の執行につき”行なわれたものに該当し、会社の使用者責任を認めた例
(仙台地裁昭56.6.1判決)(交民集14巻3号679頁)
【会社に責任を認めなかった例】
銀行員のマイカーによる通勤途上の事故につき、銀行では業務はもとより通勤にもマイカーの使用は禁止され、通勤用の定期券が支給されていたとして、当銀行に運行供用者責任を認めなかった例
(横浜地裁昭49.3.18判決)
バス従業員のマイカーによる通勤途上事故につき、早朝及び深夜勤務についても営業所内に仮泊施設があり、通勤に必ずしもマイカーを使う必要はなかったとして、バス会社使用者責任を認めなかった例
(東京地裁昭50.3.27判決)
自家用車を通勤のみに使用していたこと、自転車で通勤することが可能で自家用車を使用しなければならなかったものとは言えず、会社でも指示や便宜をはかっていたとは言えないので業務使用にあたらないとして、会社の責任を認めなかった例
(東京地裁昭59.3.16判決)(自動車保険ジャーナル59年5月24日)
タクシーの運転車で午前4時20分営業を終えて帰社しソフトボールの練習に参加した後、7時50分マイカーで帰宅する途中で事故を起こした場合について、早晩組の終業時間は午前3時とされていて、その時間帯は通常の輸送機関は動いていないことが認められるが、
仮眠室のほか諸施設が整備されているので.自家用車を通退勤に使用しなければならない状況ではなく、会社は自家用車通勤の指示、奨励をしたこともなく、便宜も与えていない等事情を併せ考え、事業の執行につきなされたものと言えず、会社の責任を認めなかった例
(大阪地裁昭58.1.27判決)(交民集16巻1号66頁)。
通勤電車がストライキのため叔父から借用した車で通勤した会社従業員が退勤中に惹起した事故につき右会社の自賠法第3条及び民法715条の責任をいずれも否定した例
(東京地裁昭61.3.25判決)(判例時報1202号74頁)
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