☆ 従業員による無断運転中の事故
一口に言えぱ、判例は会社の責任を認める傾向にあります。
車の日常の使用状況、管理状況、事故がおきるまでの時間、走行距離、更に無断運転していた人が車を会社へ返すつもりであった
(返還予定説)かどうかが判断基準となり、特別な事情がない限り、車に対する会社の運行支配が依然続いていたとして、会社は運行供用者責任を負わされます。
また外部から見て車が会社の業務に使用されていたように見える(外形理論)ので使用者責任(P2参照)も負わされるのが普通です。
例外として、会社の車に対する管理状況が万全である場合とか、同乗していてケガをした人が会社の車の無断運転であることを知っていたような場合に会社の責任を否定した例が若干あります

【判例】
【会社に責任を認めた例】
八百屋の住込店員が休業日に八百屋の車を無断私用運転中起こした事故について、店員はおおむね自動車の運転をまかされており、使用者としても自己業務に差し支えない限り自由に自動車の利用を許容し、少なくとも事実上黙認していたことから、八百屋に運行支配、運行利益が残っていたとして運行供用者責任を認めた事例
(東京地裁昭47.1O.13判決)
日曜日に運搬工事請負会社の運搬担当従業員が、上司の許可を得ずに自動車のキーを持ち出して自動車を運転し、友達と遊んだ帰路に起こした事故につき、そのような運行についても会社の利益性を全く否定するのは相当ではないとして会社に運行供用者責任を認めた例
(東京地裁昭49.10.9判決)
社員が帰宅にあたり、専務の机の引出しに保管されていたキイを持ち出し、会社の敷地内に置いてあった車を翌日返却するつもりで借り、その旨の伝言を机の上において運転中起こした事故につき、会社に運行供用者責任を認めた例
(神戸地裁昭50.1.20判決)
従業員が休暇を楽しむため、他の従業員の不在に乗じ、夜間会社の車を無断で持ち出し、自らの遊興のため乗りまわして起こした事故につき、この運転行為は会社の事業とは全く関係ないとして、使用者責任は認めなかったが、運行供用者責任は認めた例(大阪地裁昭50、1.28判決)
正月休暇中、日直勤務を終えた自動車販売会社の従業員が、会社所有車を無断私用運転中起こした事故につき、会社は従業員が販売員であったことから比較的自由に同車の使用を容認しており、同人を通じて間接的に運行の支配をし得る地位にあったとして、会社に運行供用者責任を認めた例
(但し会社に使用者責任は認められないとした)
(松山地裁西条支部昭50・1・30判決)
日常、会社の自動車を使用し、キイを保管していた従業員甲が従業員乙に執ように車を貸せと頼まれ、貸したところ乙が起こした事故につき、会社が管理を専らまかしていた甲に管理上の過失があり、又運転後会社に車が返還されることが予定されていたとして、会社はこの車の運行につき、指揮監督する地位にあり、運行支配があったとして運行供用者責任を認めた例
(松山地裁昭50.4.30判決)
運転業務に従事していない従業員の勤務時間外の無断運転による物損事故につき、当従業員は練習のためしばしば会社の車を会社付近で運転していたこと、会社は車の勤務時間外における保管が不良のため、従業員がこれを自由に持ち出せる状況にあったことを考え、外形理論を適用し、本件事故は会社の事業の執行につき生じたとして、会社に使用者責任を認めた例(東京高裁昭50.5.26判決)
建設業を営む甲に大工として雇われ、たびたび業務用の自動車を運転したことのある乙が、甲の妻の承諾を得たうえ、夜問私用で業務用の自動車を運転中に起こした事故につき、甲に使用者責任を認めた例(名古屋地裁昭50.7.18判決)
従業員が事務所内の机の引出しの中に保管してあったキーを無断で持ち出し、営業のために従業員に使用させていた車両を私用運転中に起こした事故につき、その運行は企業の支配下にあったものとして企業に運行供用者責任を認めた例
(名古屋地裁昭56.7.10判決)(交民集!4巻4号830頁)
会社の従業員A、Bが共謀のうえ、工事現場の飯場でCの身体に殴打、足蹴り等の暴行を加え、さらにAが普通乗用車を運転して飯場前の農道に倒れているCを轢過して死亡させた場合に、その車両は会社が所有し、従業員が工事のために使用していたものであり、Aが犯行の道具として用いたものであっても、会社の支配内にある工事現場の飯場において運行したものであるとして、会社の運行供用者責任を認めた例
(仙台地裁昭56.7.20判決)
【会社に責任を認めなかった例】
いわゆる同族会社の取締役が、会社の車で従業員に運転をさせ遊興に向う途中受傷した事故につき、事故車を乗り出した時以降は、事故車は会社の業務を離れたとして会社に運行供用者責任を認めなかった例
(東京地裁昭48.4.17判決)
会社の車を従業員が無断で持ち出し、同僚とともに酒を飲みに行き、酒房でこの同僚の友人である被害者と知り合い飲酒のうえ、三名で海水浴場へ出かけたが途中で引き返しその帰途起こした事故につき、飲酒運転であること及ぴ会社の業務とは何の関係もないことを承知のうえ、同乗した被害者に対して、会社に運行供用者責任を認めなかった例
(福岡地裁昭48.4.25判決)
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